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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)511号 決定 1985年3月19日

抗告人 (債務者)

破産者サンスイ機工株式会社破産管財人

山森一郎

相手方(債務者)

日本ボールバルブ株式会社

右代表者

瀧昌浩

第三債務者

鷺宮ジョンソンコントロールズ株式会社

右代表者

西見一郎

主文

1  原決定を取り消す。

2  相手方の本件債権差押命令の申立てを却下する。

3  本件手続費用は、第一、二審を通じて相手方の負担とする。

理由

一抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、本件債権差押命令の申立てを棄却する。」との裁判を求めるというのであり、その理由とするところは、

1  民事執行法一九三条一項の規定によれば、動産売買の先取特権による物上代位により債務者の第三債務者に対する債権の差押命令の申立てをするには、「担保権の存在を証する文書」を提出しなければならず、そのためには、被差押債権が発生しかつそれが債務の弁済、債権譲渡等によつて消滅せずに現存していることを推認させる文書の提出を要するものと解すべきところ、本件原決定は、右のような文書の提出がないにもかかわらずなされたものであつて、違法である。

2  破産者サンスイ機工株式会社(以下「破産会社」という。)は、その破産宣告の日(昭和五九年九月二五日)及び本件原決定の送達の日(同年一〇月一一日)の前の同年八月二八日、本件被差押債権を申請外株式会社川電機器製作所に債権譲渡し、その旨を同月二九日に到達した書面によつて第三債務者の鷺宮ジョンソンコントロールズ株式会社(以下「第三債務者会社」という。)に通知した。したがつて、原決定は、先取特権による物上代位権が存在しないのになされたものであつて、違法である。

というのである。

二当裁判所の判断

1  本件記録によれば、本件債権差押命令の申立ては、相手方が昭和五九年七月一一日に破産会社に売渡した動産商品(以下「本件商品」という。)の売買代金債権を被担保債権及び請求債権とし、破産会社が右同日に第三債務者会社に転売した本件商品の転売代金債権を被差押債権として、動産売買による先取特権に基づく物上代位権の行使として同年九月一九日に相手方により原裁判所に申し立てられたものであること、破産会社は、同年九月二五日東京地方裁判所において破産宣告を受けて、抗告人が破産管財人に選任されたこと、原裁判所は、同年一〇月八日に原決定たる本件債権差押命令を発し、原決定は抗告人及び第三債務者会社に対して同年一〇月一一日に送達されたものであることが明らかである。

そして、相手方は、本件商品の売買による先取特権に基づく物上代位権の存在することを証する文書として、相手方と破産会社間の商品売買基本契約書、本件商品についての注文書及び納品書、相手方の得意先元帳、相手方から破産会社への代金請求書、本件商品が転売先の第三債務者会社に配送されたことを証する書面及び相手方従業員の陳述書を原裁判所に提出し、これら文書によれば、相手方が本件商品の売買による先取特権に基づく物上代位権を取得したことがその記載自体から明らかである。そして、債権差押命令の申立人としては、右のように先取特権に基づく物上代位権を取得したことを証する文書を提出すれば足り、それ以上に物上代位権が債務の弁済、第三者への債権譲渡等によつて消滅しないで存続していることまで証明する必要はない(右のような物上代位権の消滅事由があるときは、後にみるとおり、債務者においてそれを理由とする債権差押命令に対する執行抗告又は競売手続外の一般民事訴訟をもつて争うべきである。)のであるから、抗告人の主張する抗告理由1は失当であり、この点について原決定及びその手続にはなんら違法はない(なお、破産会社が本件債権差押命令発布前に破産宣告を受けたことは先に説示したとおりであるけれども、破産会社はこれによつて財産権に対する管理処分権能を剥奪され、破産債権者による個別的な権利行使が禁止されるというにとどまり、右財産権が破産財団又は破産管財人に譲渡されたことになるものではないのであるから、先取特権者たる相手方は、破産会社が破産宣告を受けた後においても、物上代位権を行使することを妨げられるものではない。最高裁判所昭和五九年二月二日第一小法廷判決・民集三八巻三号四三一頁参照。)。

2  次に、民事執行法一九三条二項は、同法一四五条五項の規定を準用して、債権その他の財産権を目的とする担保権の実行又は債権を目的とする担保権に基づく物上代位権の行使としての差押命令に対して執行抗告をすることができるものとする一方、同法一八二条の規定をも準用しているところであるが、同法一八二条の規定は、不動産を目的とする担保権の実行としての競売の申立てが債務名義なくして開始されるものであることに鑑み、不服申立方法としてはもともと執行異議の申立てしか許されない不動産競売の開始決定について、担保権の不存在又は消滅を執行異議の理由とすることができるとするものにすぎないのであるから、同法一四五条五項の規定とともに同法一八二条の規定を準用する旨を定める同法一九三条二項の規定の法意は、債権その他の財産権を目的とする担保権の実行又は債権を目的とする担保権に基づく物上代位権の行使としての差押命令について、執行抗告の申立てとは別に担保権(物上代位権)の不存在又は消滅を理由として執行異議の申立てをすることができるとするものではなく、本来は手続上の瑕疵に対する不服申立方法である差押命令に対する執行抗告において、例外的に担保権(物上代位権)の不存在又は消滅という実体上の事由を主張することができるとすることにあるものと解するのが相当である。

そして、抗告人の提出にかかる債権譲渡通知書及び郵便物配達証明書によれば、破産会社は、破産宣告を受けた日(昭和五九年九月二五日)及び本件債権差押命令が送達された日(同年一〇月一一日)の前の同年八月二八日、本件被差押債権を申請外株式会社川電機器製作所に債権譲渡し、その旨を同月二九日に到達した書面によつて第三債務者会社に通知したことが認められるのであつて、右事実によれば、本件商品の売買による相手方の先取特権に基づく物上代位権は右債権譲渡によつて消滅したものというべきであり、したがつて、相手方のした本件債権差押命令の申立ては失当として却下さるべきものであつて、抗告人の主張する抗告理由2は理由がある。

三結論

よつて、相手方の本件債権差押命令の申立てを認容した原決定を取り消して、右申立てを却下することとし、本件手続費用は第一、二審を通じて相手方の負担とすることとして、主文のとおり決定する。

(西山俊彦 越山安久 村上敬一)

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